理想のシステム(数万行のデータは必要か。)

 以前出席した勉強会の懇親会で業務システムから出力するデータ量の話がでた。
ある人は出力するデータは数百行あればよい、無駄に多くのデータを真剣に見る人などいないと言い。
ある人は数万行のデータが必要になる場合があると言う。
私は、数万行のデータが必要な場合を知っているような気がしていたのだが、その時には具体的に思い出せなかった。
あとでよく考えてみて自分なりに納得できたのでここに書いておこうと思う。

 簡単にいえば、社長が欲しい理想の業務システムと実現可能な業務システムが乖離しているのである。
売り込みに来たシステム開発業者はコンピュータを導入すれば全てがうまくいくような話をするのであるが、そんな時に私は相手に言うのである。
「社長が指一本でポタンを押したら、社長の欲しいデータが出てくるシステムができるんなら、いつでも頼むでぇ〜」と。
だいたい、ここで話は終結に向かうのであるが・・・。

 一見、無理難題を言っているようであるが実際そうであろう、ずいぶん昔に「答え一発!カシオミニ」という電卓のCMがあったが、コンピュータはそれ以降に飛躍的に発達した。
進化を遂げたコンピュータに大金を投じても、欲しいデータがすぐに出てこないというのは社長にとっては理不尽でさえあろう。

 でも、当然でもある。
社長の中に次々に湧き出る、「あの商品のこんなデータが欲しい、3年前のこんなデータが欲しい、あの部門のこんなデータがほしい、他の関係ないデータはいらんのや!」という叫びは後から発せられたもので開発時の要件には入っていないのである。
その上、社長が叫ぶときはたいてい、スグ欲しいのである。

 では、どう対応するのか。

 社長が叫ぶ前に、社長席の近くにいる人間には予兆がある。
ぶつぶつ言い出すのである。
「あの部門のあの商品の売れ行きが悪い。」
「人件費が高すぎる。」
「決算期が近づいて来て、気になる勘定項目がある。」
「資金繰りの為、経営計画を作成する必要がある。」等々。

それはデータを絞り込む為のパラメータである。
社長の方向性がわかり、表計算に取り込める程度のデータ量になった頃にシステム部門に頼むのである。
これこれのデータがCSV形式で欲しいと。
それからも社長のパラメータと思われる物言いは続く。
内容があやふやな時には話題をふったりしてさりげなく確認しておく。

 そして、その時は来る。
社長はシステム部に言うのである。

社長    「これこれのデータが欲しいけど、スグでえへんか。」
システム部員「スグには無理です。」
社長    「そんなキッチリじゃなくてええんや。」
システム部員「そんなことを言われましても。」

社長    「A君、なんとかならんのか。」
A君    「こんなデータなら、ありますけど。」

A君が取り出した書類はあのシステム部からのCSVデータをその後の社長の言動から得たパラメータでさらに絞りこんだものが明細表になり、ご丁寧に社長が見たいであろう項目ごとに集計された表が表紙となってまとめられていた。
その枚数は10枚に満たない。

A君    「システム部のデータほど正確ではないかもしれませんが。」
社長    「ええ、ええ、これでだいたいワシの知りたいことはわかるわ。コピーしてくれるか。」
A君    「いえ、同じものがパソコンに保存してありますから、それをそのままお使い下さい。」

 その後、社長は度々A君にあんなデータはないか、こんなデータはないかと聞くことになる。
まさに、社長は指一本動かすかわりに、A君に言葉で要求することで不完全ではあるが理想のシステムに近いものを手に入れるのである。

 A君はシステム部にあまり口出ししてはいけないし、社長との会話もさりげなくすることだ。
そうすることで、システム部も社長に無理難題を言われるより、A君に社長のおもりはまかせておこうという話になるのである。
 A君はシステム部からデータをもらっただけであり、社長からもほしいデータを持っているかどうかを聞かれただけである。
これも社内疎結合の一例といえるのではないか。

(おわり)